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名古屋地方裁判所一宮支部 昭和33年(ワ)91号 判決

原告 白玉興業株式会社破産管財人 平山文次

被告 片山機械株式会社

右代表代表者取締役 片山喜之助

右訴訟代理人弁護士 堤幸一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

成立に争のない甲第一ないし第四号証、同第七号証に証人望月正留の証言を綜合すると訴外白玉興業株式会社はさきにその事業に蹉跌を来たした末昭和三十年二月十二日会社更生手続開始の申立をなし同年五月四日更生手続開始決定がなされ原告平山文次及び訴外井上清吉の両名が更生会社の管財人に選任せられ、こえて翌昭和三十一年三月十二日その更生計画案に対し認可決定がなされるに至つたところ右訴外会社はその後に至り本件物件の売買その他の不当な行為を敢行したためその更生計画は遂行の見込がないことが明かとなつたので会社更生法(以下単に法という)第二百七十七条に則り昭和三十三年四月三十日更生手続廃止の決定がなされ続いて同年六月二十三日法第二十三条第一項に則り職権を以て右訴外会社に対し破産宣告がなされ、それと共に原告はその破産管財人に選任せられたことを認めることができる。

そして右訴外会社の代表取締役河合繁則は右会社に対する更生手続中たる昭和三三年三月二十五日同会社を代表して同会社所有にかかる別紙目録記載の物件(但し(二)の中の一部を除く)に付被告会社との間に代金百五十万円を以て売買契約を結んだことは当事者間に争なく右売買の目的中に右目録記載の(二)の物件(但し分解した部品)が包含されていたことは成立を認むべき乙第一号証と証人山下進の証言とによつて明白である。

ところで原告は右売買契約は第一ないし第三の理由によつて無効であると主張し被告は之を争う。

よつてまず第一の理由に付考へるに

なるほど更生手続開始の決定があつた場合においては会社の事業の経営並に財産の管理及び処分をする権利は管財人に専属するに至るものであることは法第五十三条の明規するところであるけれども、だからといつて会社が更生手続開始後会社財産に関してした法律行為が当然に絶対無効となるものでないことは法第五十六条第一項に「会社が更生手続開始後会社財産に関してした法律行為は更生手続の関係においてはその効力を主張することができない。」と立言規定しているところに徴して疑がない。

一般に同条項の規定は破産手続における破産法第五十三条第一項と同趣旨と解せられているのである。それ故、会社は更生手続開始によつてはその行為能力を喪失するものでなく、会社がその後した法律行為は全然無効となるものでなくして単に更生債権者等を保護する必要上その効力を更生債権者等に対抗することを得ざらしめるに止まる趣意であると解すべく延いて更生手続がその廃止により終結したときはその時より右法律行為は完全に効力を生ずるものと解するを相当とする。

そうだとすれば本件において訴外会社に対する更生手続廃止後たることが明かな今日においては本件売買の効力を否定すべきいわれは少しもないといわなければならない。

ただこの際一考を要することは法第二百七十九条に「第二百七十七条の規定による更生手続の廃止は更生計画の遂行及びこの法律の規定によつて生じた効力に影響を及ぼさない」と規定していることであるが、この規定の存することは少しも本件売買契約の効力を肯定することの妨げとなるものでないと解する。

してみると本件売買契約が第一の理由によつて無効であるという原告の主張はいわば主張自体失当であるといわなければならない。

次に第二の理由に付考へるに

証人望月正留の証言によれば本件売買の目的物件は訴外会社の事業用の設備の大部分であることを窺知するに難くはないが右物件を譲渡したからといつて之を目して直に営業の譲渡があつたということはできないし他に右訴外会社が被告会社に対し営業の譲渡を行つたことを認めるに足りる証拠は少しもない。

してみると原告の右第二の主張は営業の譲渡という前提を欠き失当であるといわなければならない。

次に第三の理由に付考へるに

原告の主張の(一)(二)(三)の機械に付右訴外会社がさきに一宮信用金庫のため工場抵当法第三条による根抵当権を設定したからといつて右物件が工場財団を構成するものでないことは原告が自ら認めるところであるからこれらの物件が不動産と看做されるものでないことは工場抵当法の全体の規定に徴して明かである。それはあくまで動産であつてただ工場に属する土地又は建物に工場の所有者が抵当権を設定した場合にはその抵当権の効力が土地又は建物に附加して之と一体を成した物及び之に備付けた機械器具その他工場の用に供する物に及ぶというにすぎない。(工場抵当法第二条参照)

そして第三者は工場の所有者からかかる動産を買取ることを妨げられるものでなく第三者への所有権移転はその善悪を問わず有効に行われるのであるが、ただこの場合抵当権者はその第三者が悪意もしくは善意でも過失ある場合には登記の要件を具備するかぎり第三者の手中に帰した右動産に対してもその抵当権を行使することができるのであり、(工場抵当法第五条第一項参照)第三者が平穏且公然善意無過失で之を取得した場合にはその抵当権すら消滅に帰するのである。(同条第二項参照)

従て右訴外会社と被告会社間の右(一)(二)(三)の機械の売買契約は結局有効であることが明かであるから之を無効とする原告の主張は当たらないものである。

以上みたところからして本件売買契約を以て無効となし之を前提とする原告の本訴請求はすでにその前提を欠くものであることが明かであるからその余の争点に付判断するまでもなくとうてい失当として棄却を免れない。

よつて民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 白木伸)

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